ビルのエントランス。バトーが天井を見上げていた。

 天井から吊るされた鳥、アンドロイドのアコーディオン弾き、正面のエレベーターに乗った。

 この古臭いエレベーターが、静かに動き出した。

『この建物の見取り図を読み出しておけ』

『リョーカイ』

 

 暗い廊下の両側に無数に並ぶサーバ群。ファンの低い唸り声。その中の一台に、バトーが身代り防壁を通したコードを接続した。

 

 

 ネオンが消え、ショーウインドウが割られている店の奥の小部屋にいた。完全義体の情報屋はいなかった。机の上に、折鶴が落ちていた。

 サーバに接続してからの数秒間で、バトーの身代り防壁を無力化し、電脳の攻勢防壁までも突破して、「何か」がバトーの脳を制圧した。

 その「何か」に話しかけた。

 

「お前は誰だ?」

―私に名前は無い。肉体から持ち出した記憶はごく僅かだ―

「目的は何だ?」

―私が私であるために必要とされるものを手にしたい。それには手助けが必要だ―

「俺がここに来ると知っていたのか?」

―私は個を確立していないゴーストの情報でしかない。知る事はない……手助けの礼に、この端末の使用者に関する情報を与える。顔、今の名前、居場所――

 

 

 向かいのビルの屋上まで上がり、ウチコマを自閉モードにさせてからジャックインすると潜入の跡が見つかった。

『バトー、どうだ?』

『端末は見つけましたよ』

『ローレンス・ソサエティに教育関連テロリストの影が見つかった。イシカワ達が向かっている。合流しろ』

 

 

『いくら俺でも、いきなり警察系の暗号で暗号通信を受けたら、いくらか手間取るんだよ。最近は警察以外にも警察の暗号を使うところが増えて…』

『昔の仲間を集められるか?』

『あぁ、死んだ奴以外はな……』

『集めておいてくれ』

 

 

 ツクバのヘリポート。9課のヘリを見上げるバトー。飛び立つ白い鳥達。

 

 

「ローレンスはツクバ・フロートができて以来の企業だが、規模で言えば旧関東でトップクラスだ」

 ガラクタ屋の情報屋が、借り物の船の上でバトーに話していた。

『バトー、現地の人間なんか使って大丈夫か?』

『心配いらねぇよ』

『こっちの準備は完了した。ヒノキとゾウダが回線に枝を張っている。プロトが俺たちの通信の中継をやってる』

 湖の水面に、睡蓮の花が咲いている。

「ダイバーは作業を終えたぞ、バトー。マルは電波塔から狙撃の準備をしている……俺たちにできることはここまでだ」

 

ロクスの専用港に着けた船からバトーとウチコマが降りた。海上セキュリティはあと2分で正常に戻る。

対戦車砲でウチコマが潰されたのは、コンテナとコンテナの間を通り抜けているときだった。狙撃手は他にも二人はいた。ウチコマを盾にしていると、近くの倉庫から大型の多脚戦車が出てきた。

しかし、その戦車は向きを変えて、無反動砲でコンテナの上にいた狙撃手を潰した。

 

ロクス社ビルの専用港側搬入口から、武装した警備アンドロイドが出てきたが、多脚戦車の砲撃になぎ払われた。バトーは戦車の足の間を滑り抜けて、ロクス社ビルに入った。戦車はそのまま動かなくなった。

 

バトーは地下第二レベルの通路まで降りてきた。電波の届かない第二レベルには、社内ネットのメインフレームが並んでいる。バトーが中継器を接続した。

『繋いだぞ』

『12秒前から、外部回線にデコイを送り込んだ。システムを制圧するまで待ってろ』

 

 

 ロクス社の保安課長が慌しく保安室に入ってきて、予備も含めすべてのIAを起動した。

「警備室を呼び出せ」

「警備主任への論理的接続不可能」

「警備室、外部から遠隔制圧されました」

「セクションコードを持っていたのか確認しろ」

 

―外壁内でウイルス増殖中―

―第一レベルの防壁70%損傷―

―損傷部を隔離、武装デコイを装備―

―マスクアレイに攻撃開始―

―サーバのオフラインを確認、防壁アレイ起動―

―アクセスポイントを発見―

―ウイルス転送開始―

 

『イシカワ、どうだ?』

『敵の処理速度が速すぎて追いつかない。大量の電脳を並列化でもすれば何とかなりそうだがな』

 ティルト内から無線でのハッキングを行っていたが、身代り防壁から煙が上がった。

 

 

「持ち直したか」

「残りのウイルスをワクチンで中和しています……サーバ上のスペースで、防壁発生中、自律プログラムと思われます」

「確認しろ」

 保安課長は、首のジャックにコードを差し込んだ。

 

―防壁A‐22、機能不全―

―セキュリティ区画の防壁アレイ、突破された―

―コントロールが低E―

―システムを再起動―

 

 IAが機能停止し、保安課長が脳を焼ききられた。

 

 

バトーは、貸しサーバ屋のビルのエントランスにいた。アンドロイドのアコーディオン弾きはいなかった。

 天井から折鶴が落ちてきた。

―協力に感謝する。ツクバの協力者には、銀行口座から謝礼を支払ってある。ローレンスの犯罪性の証拠は押さえておいた。例の端末の利用者の情報はここにある―

「お前はどうするんだ……」

―ネットの海へ漕ぎ出す―

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送