「状況を記録して、あれをバンに積んでおけ」
 バトーは連れてきた隊員に言った。
『バトー、どうだ』
『さすが少佐。痕跡はごっそり消えてます。ただ、ツクバの端末を経由させていたのが気になりました。そのあたりを調べれば何か出てくるかもしれません。それより課長、トグサの方は?』
『犯人を射殺。人質を救出したそうだ』
『あいつにしては、よくやりましたね』
『だが、課題は山積みだ。少佐の件はお前に一任する。明日の朝、ティルトでツクバに飛べ』
『俺一人でですか?』
『ウチコマ一機をつける。こっちは忙しくなりそうだ』


 他のウチコマ達に見守られながら、鑑識が少佐の乗り捨てたウチコマを調べていた。ウチコマは手を伸び縮みさせ、目を回転させている。バトーとイシカワがハンガーに来た。
「どんな感じだ」
「ハードの改造はもちろん、感情移入度数値にも変化は見られない」
「メモリのキャッシュは?」
「解析中だが何もでないだろう」
「小学校で被弾した機体は?」
「目をやられていた。タチコマと違って、生体レンズユニットがひとつしかないのは問題だな」
 ハンガーの奥に、目のないウチコマが佇んでいた。
 個性のない目、区別の無い殻。


 ツクバ・フロート―――先の大戦で水没した地域に建造された水面の浮上都市。最先端のサイバネティクスと闇医療が集まる街。
 降り止まない雨、空は曇りガラスの色。
『イシカワ、プロキシの位置特定はできたか?』
『あぁ、できてる。東大通りに面した、登録では貸しサーバ屋になっているビルの三階だ。データを送る…………なぁ、バトー、トグサが義体化するらしい』
 窓を打ち、流れ落ちる雨。


 人で溢れるツクバの通りを、バトーがウチコマを連れて歩いていた。通りに面した、闇医者のクリニック、脱法武器の店、オキアミベースのサイボーグ食の屋台。ビルを見上げるバトー。
「迷彩かけて、あれを隣のビルの屋上から見張っておけ」
「リョーカイ」
 
「久しぶりだな」
「根室の上陸作戦以来か」

 バトーは、ネオンが消えショーウインドウが割られている店に来ていた。

「東大通りの貸しサーバ屋について、聞きたいことがある」
「ニクスのビルか、あそこは個人規模のクラッカーの類に貸し出しているサーバが入っている。一昔前には公的なデータバンクだったらしいがな。で、何が知りたい」

 店の中は暗く、ガラクタが積まれている。旧式のモニタ群。外国語の分厚い本。天井から垂れ下がるケーブルの束。

「そこの端末をプロキシとして使うことはできるか?」
「ここはツクバだ。サーバの基本スペックは高い。転送プログラムをロードすればいい」

 バトーは死んだ機械の山を避けながら、店の突き当たりのドアまで進んだ。ドアを開けると、そこには完全義体の情報屋が待ち構えていた。

『ウチコマ、変化は』
『アリマセン』

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